夫婦が別居して婚姻費用や養育費を支払う必要がある場合、一方が自宅に住むことが多いですが、住宅ローンを支払わなければならない場合があります。
こういった場合、養育費の計算において住宅ローンの支払は考慮されるのでしょうか。
自宅を取得し住宅ローンを組むという場合、住宅ローンの支払は、資産形成のための費用と考えられています。
つまり、住宅ローンの支払により不動産を取得できるので、支払っても損はしないということです(建物は経年劣化しますので、疑問もあります。)。
このように、住宅ローンの支払により損はしないと考えられているため、婚姻費用や養育費では考慮しないというのが原則です。
ただし、いろいろなケースがあり、実際には考慮されることもあるため、以下場合を分けて考えます。
なお、以下ではすべて妻より夫の収入が高く、夫が妻に婚姻費用を支払う場合を想定しています。
夫名義の自宅に夫が住宅ローンを支払い、妻が居住するような場合ですが、このような場合、妻は住居費を免れています。
一方、婚姻費用を算定する際には、特別経費として住居関係費が控除されています。
そこで、婚姻費用を考えるにあたって、住宅ローンの支払いが考慮されることがあります。
具体的な控除の方法や金額に関しては、いろいろな考え方がありますが、算定表で算出された金額から、妻の収入に見合う標準的な住居関係費を控除する審判例が多いといえます。
賃料相当額の控除までは認められないことが通常です。
この方法による場合、妻に収入がないと、通常の婚姻費用から月30,000円程度を控除することになります。
東京家審平成22年11月24日
申立人も認めるとおり、住宅ローンの支払には、その資産を形成する側面があり、申立人の年収からして、上記婚姻費用分担金のほかに住宅ローン全額を負担させることが過大な負担になるとは言い難いこと、また、上記算定方式において、申立人の基礎収入を算定するに当たり、総収入から住居関係費として10万円以上が控除されていることからすれば(上記文献の資料2参照)、本件において上記算定方式による試算結果から控除すべき住宅ローンの額を月額3万円に留めることが、当事者間の公平に反するとはいえない。
東京家審平成27年6月17日
標準算定表は、別居中の権利者世帯と義務者世帯が、統計的数値に照らして標準的な住居費をそれぞれ負担していることを前提として標準的な婚姻費用分担金の額を算定するという考え方に基づいている。しかるところ、義務者である相手方は、上記認定のとおり、平成26年×月まで、権利者である申立人が居住する自宅に係る住宅ローンを全額負担しており、相手方が権利者世帯の住居費をも二重に負担していた。したがって、当事者の公平を図るためには、平成26年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては、上記の算定額から、権利者である申立人の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当である。
そこで、平成26年×月までに対応する申立人の総収入200万円を12で割ると、16万6666円(1円未満切捨)となり、これは、上記東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁以下における294頁の資料2(年間収入階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出)の項目199万9999円以下の列における実収入16万4165円に近似するところ、この列における住居関係費(住居の額に土地家屋に関する借金返済の額を加えたもの)は2万7940円である。したがって、平成26年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては、標準算定表により算定される婚姻費用分担金の標準額から2万7940円を控除するのが相当である。
東京家審平成27年8月13日
申立人は自らの住居関係費の負担を免れる一方、相手方は自らの住居関係費とともに申立人世帯の住居関係費を二重に支払っていることになるから、婚姻費用の算定に当たって住宅ローンを考慮する必要がある。もっとも、住宅ローンの支払は、資産形成の側面を有しているから、相手方の住宅ローンの支払額全額を婚姻費用の分担額から控除するのは、生活保持義務よりも資産形成を優先させる結果となるから相当でない。そこで、当事者双方の収入や住宅ローンの支払額、相手方の現在居住している住居の家賃の額や家計調査年報の当事者双方の総収入に対応する住居関係費の額などの一切の事情を考慮し、本件では、次のとおりの金額を婚姻費用の分担額から控除するのが相当である。
ア 平成二六年××月から同年××月まで 三万円
イ 平成二六年××月以降 一万円
妻名義の自宅に妻が住宅ローンを支払い、妻が居住しているような場合ですが、このような場合には、妻への婚姻費用を考えるにあたって、住宅ローンの支払いは考慮しません。
夫婦共有名義の自宅に夫婦共に住宅ローンを支払っているが、妻が居住しているような場合ですが、このような場合には、夫が住居費を免れているとは言えないため、婚姻費用を考えるにあたって、住宅ローンの支払いは考慮されないのが原則です。
夫名義の自宅に夫が住宅ローンを支払い、夫が居住しているような場合ですが、このような場合には、妻への婚姻費用を考えるにあたって、住宅ローンの支払いは考慮しません。
妻名義の自宅に妻が住宅ローンを支払っているが、夫が居住しているような場合ですが、このような場合には、夫が住居費を免れています。
婚姻費用の算定では、特別経費として住居関係費が控除されているため、この部分を控除しないなどの形で、婚姻費用を考えるにあたって、住宅ローンの支払いが考慮されることがあります。
夫婦共有名義の自宅に夫婦共に住宅ローンを支払っているが、夫が居住しているような場合ですが、このような場合には、夫が住居費を免れているとは言えないため、婚姻費用を考えるにあたって、住宅ローンの支払いは考慮されないのが原則です。
住宅ローンを支払う必要がない、借家の場合を考えてみます。
たとえば、夫婦が借家に住んでいたが、夫が自宅から出ていき、妻が自宅に住み続けるような場合です。
このような場合にも、夫が家賃を払い続けて妻が住み続けることがありますが、この家賃は婚姻費用から控除されるのが原則です。