配偶者が遺産分割において配偶者居住権を取得する場合には、その財産的価値に相当する金額を取得することになります。
そのため配偶者居住権をしゅとくした配偶者は、その価値に相当する分だけ、他の遺産からの取り分が減ることになります。
また、配偶者が遺贈や死因贈与によって配偶者居住権を取得した場合にも、特別受益との関係で配偶者の具体的相続分に影響を与えることになります。
他に分割対象の遺産がない場合においては、遺留分侵害の有無を判断する際においても財産評価が問題となります。
配偶者が配偶者居住権を取得する場合にはその財産評価を確定させることが必要です。
配偶者居住権については以下をご覧ください。
配偶者居住権とは
家庭裁判所による簡易な評価方法と、日本不動産鑑定士協会連合会による還元方式、相続税法による評価方法があります。
簡易な評価方法は当事者が目安として利用する簡易な計算方法であり、還元方式は厳密な計算方法です。
共同相続人間で配偶者居住権の評価額について争いがある場合には、還元方式によることになるものと思われます。
簡易な評価方法は、配偶者居住権の負担がない居住建物とその敷地である土地又は敷地利用権の現在価額から、配偶者居住権の負担が付いた建物所有権とその土地所有権又は敷地利用権の価額の合計額を差し引いて、配偶者居住権の価額を算出するものです。
計算式
配偶者居住権の価額=建物敷地の現在価額-配偶者居住権付所有権の価額
固定資産税評価額ないし時価に基づいて評価を合意するか、鑑定をして確定させることになります。
なお、遺産分割により取得する際の評価は現在価額だが、遺贈等により取得した配偶者居住権を持ち戻す際の評価を算出する場合には、相続開始時の価額とすることになります。
配偶者居住権付所有権の価額=負担付建物所有権の価額+負担付き土地所有権の価額
配偶者居住権を設定していた場合に建物所有者が得ることとなる利益の現在価値です。
建物の法定耐用年数、経過年数、配偶者居住権の存続年数を考慮して配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物の価値を算定し、これを法定利率等で現在価値に引き直して求めることになります。
計算式
負担付建物所有権の価額=固定資産税評価額×法定耐用年数-(経過年数+存続年数)/(法定耐用年数-経過年数)×ライプニッツ係数
法定耐用年数は、木造の住宅用建物は22年、鉄筋コンクリート造の住宅用建物は47年です。
配偶者居住権の存続期間が終身である場合には、簡易生命表の平均余命の値を使用するものとします。
敷地の固定資産税評価額又は時価×ライプニッツ係数
ケース
一戸建て(築15年、鉄筋コンクリート造、固定資産税評価額1400万円。敷地の固定資産税評価額6000万円)を対象として妻(76歳)終身期間の配偶者居住権を設定した場合における配偶者居住権の価額はいくらか。
建物敷地の現在価額
1400万円+6000万円=7400万円
負担付建物所有権の価額
1400万円×(47年-15年-15年(平均余命))÷(47年-15年)×0.642(平均余命15年のライプニッツ係数)=477万4000円
負担付土地所有権の価額
6000万円×0.642(平均余命15年のライプニッツ係数)=3852万円
配偶者居住権の価額
7400万円-477万4000円-3852万円=3070万6000円
配偶者居住権の価額=(正常賃料相当額-必要費)×年金原価率(期間・利率)