離婚訴訟において、不貞行為が争点になることがあります。
この場合に並行して、不貞行為をされた配偶者が、不貞行為をした第三者に対して損害賠償請求訴訟をすることがあります。
前者の離婚訴訟は家庭裁判所で行われ、後者の損害賠償請求訴訟は地方裁判所(簡易裁判所)で行われるのが通常です。
しかしながら、後者の損害賠償請求訴訟を家庭裁判所に移送して、両者を併合して家庭裁判所で審理することはできるでしょうか。
この点、最決平成31年2月12日は、移送することができると判断しました。
離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、上記被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は、人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」に当たると解するのが相当である。
損害賠償請求訴訟については,地裁又は簡裁に管轄があります(裁判所法24条1号,33条1項1号)。
そこで、通常、慰謝料請求は地方裁判所又は簡易裁判所に対して提起することになります。
しかしながら、人訴法8条1項は、人事訴訟が係属している場合において、人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求が第1審裁判所に提起されたときは,その第1審裁判所は当該訴訟を上記人事訴訟が係属する家庭裁判所に移送することができる旨を定めています。
そして、家庭裁判所が関連損害賠償請求訴訟について自ら審理及び判断することができるとしています。
人訴法8条1項における「人事訴訟」は「離婚訴訟」ですから、不貞行為をされた配偶者から不貞行為をした第三者に対する損害賠償請求が「離婚訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」に該当すれば、家庭裁判所に移送できるということになります。
この点、上記決定は、離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、上記被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は、人事訴訟法8条1項により家庭裁判所に移送できると判断しました。
上記決定の事例とは異なり、離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、上記被告が上記第三者を相手方として当初から離婚訴訟の係属する家庭裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することも考えられます。
上記決定との違いは、当初から家庭裁判所に損害賠償請求訴訟を提起するか、それとも、当初は地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した後、移送するか、という違いです。
実務上は、このように当初から慰謝料請求訴訟を家庭裁判所に提起することもできると考えられています。
したがって、実務上の対応としては、離婚訴訟係属中に不貞行為をされた配偶者が、不貞行為をした第三者に対して損害賠償請求訴訟を提起する場合には、当初から家庭裁判所に対して訴訟提起する方が無駄が少ないといえます。
人事訴訟法
第八条 家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。