特定財産承継遺言とは、遺産に属する特定の財産を相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言のことをいいます(民法1014条2項)。
この特定財産承継遺言は遺贈ではなく、遺産分割の方法の指定の一種だと考えられています。
遺言実務上、相続人に遺産を承継させる場合に「相続させる」旨記載することがよくあります。
特定財産承継遺言も「相続させる」旨の遺言のひとつですが、必ずしもイコールではないので注意が必要です。
特定財産承継遺言は、特定の財産を承継する遺言です。
これ以外に、全部の財産を承継する場合や、財産の一定の割合を承継する場合に、「相続させる」旨の遺言を用いることもありますが、これらは「特定財産承継遺言」ではありません。
特定の財産を遺言で承継させる方法として、「遺贈」とする方法もあります。
特定財産承継遺言との違いは、相続人以外の第三者に承継する場合には、遺贈によるしかないこと、また、登記の方法が異なることなどがあげられます。
特定財産承継遺言がなされている場合、相続が生じると、直ちに当該相続人に当該財産の所有権が帰属します。
したがって、当該財産は、遺産分割の対象ではなくなります。
受益相続人は、特定財産承継遺言がある場合、単独で相続登記をすることができます。
相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないとされています(民法899条の2)。
したがって、特定財産承継遺言においても、登記を備えなければ、法定相続分以上の持ち分については第三者に対抗することはできません。
第三者に対抗できないというのは、たとえば、相続人の1人が受益相続人に無断で相続登記をした後、第三者に持分を譲渡してしまった場合、受益相続人は第三者に対して所有権を主張できないということです。
債権承継についても、不動産と同様、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ、対抗することができないとされています(民法899条の2)。
債権承継の対抗要件は、本来であれば譲渡人(共同相続人全員)の債務者への通知または、債務者の承諾です(民法467条1項)。
しかしながら、受益相続人が当該債権に係る遺言の内容を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなされます(民法899条の2第2項)。
したがって、特定財産承継遺言においても、受益相続人は、債務者に対して、遺言の内容を明らかにしてその承継の通知をする必要があります。
特定財産承継遺言がされた場合、遺言執行者は、原則として、受益相続人のために対抗要件を具備する権限を有します(民法1014条2項)。
したがって、遺言執行者は、特定財産承継遺言に基づき単独で相続登記をすることができます。
一方、受益相続人自身も単独で相続登記をすることができます。
なお、遺贈の場合には、相続人又は遺言執行者が登記義務者として共同申請を行う必要がありますので、特定財産承継遺言の場合と取り扱いが異なります。
特定財産承継遺言により遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます(民法1047条1項)。