利益相反行為とは、後見人にとって利益となるが被後見人にとって不利益となるというように、後見人と被後見人の利害が相反する行為をいいます。
被後見人の財産を後見人に対して贈与するなどといった場合が典型例です。
この場合、贈与を受ける後見人には利益になりますが、贈与する被後見人には不利益になります。
このような行為を後見人が自由にすることができるとすれば、被後見人が不利益をこうむることになりかねません。
後見人が利益相反行為を行う場合、成年後見人に適正な代理権の行使が期待できないため、特別代理人を選任する必要があります(民法860条・826条)。
ただし、後見監督人が選任されている場合は、後見監督人が被後見人を代表するため(民法851条4号)、特別代理人の選任は不要です(民法860条但書)。
親族後見人の場合には、後見監督人が選任される場合も多いと思われます。
特別代理人は、後見人、親族その他利害関係人が、後見開始の審判をした家庭裁判所に対し、申立てを行い、選任を受けることになります。
利益相反行為について、特別代理人の選任なくこれを行った場合には、無権代理となります。
したがって、原則として当該行為は無効となりますが、後に特別代理人を選任して追認することで有効になることもあります。
利益相反行為となるかどうかは、行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであり、後見人の動機や意図をもって判定すべきではないと考えられています(最三小判昭和42年4月18日)。
最三小判昭和42年4月18日
事案の概要
親権者が子の法定代理人として約束手形を振り出し、自らもその共同振出人となった場合において、手形が子を主債務者とし親権者をその連帯保証人とする借受金の支払のために振り出す行為が利益相反行為に該当するか
判旨
民法八二六条にいう利益相反行為に該当するかどうかは、親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでないとした原判決の判断は正当であつて、これに反する所論は採用できない
原判決は、挙示の証拠関係に徴し、所論手形行為の原因関係たる貸付は上告人ら自身が債務者となり、Aはその連帯保証人となつたものであること、および、本件各手形はいずれも右借受金支払のために振り出されたものであることを認定し、右事実関係を外形的に観察した場合、上告人らと親権を行なうAとの間に民法八二六条所定の利益相反関係は存しない旨判示しているのであるから、所論理由不備はなく、かつ、その判断は首肯できる。
遺産分割協議において未成年者や成年被後見人がいる場合には注意が必要です。
複数の被後見人に対し同一の後見人が選任されている場合(例えば、複数の未成年者が相続人で、同じ親権者がいる場合)、後見人と被後見人がいずれも相続人である場合(例えば、親子両者が相続人である場合)、などには特別代理人の選任が必要です。
また、後見人と被後見人いずれもが相続人である場合に、被後見人が相続放棄をする場合にも、特別代理人の選任が必要です。