自宅が自分が所有する建物にもかかわらず、自分が自宅を出ていき、配偶者らが自宅に残るということがあります。
このように、別居が、配偶者が自分が所有する自宅に住み、自分自身は別の場所に住んでいるという形で行われる場合、配偶者に自宅の明渡しを求めることはできるでしょうか。
この問題は、離婚前と離婚後に分けて検討する必要があるので、以下のとおり分けて検討します。
離婚前については、夫婦関係が破綻していても、なお、夫婦間の同居・協力・扶助義務に基づく占有権限があり、使用貸借関係があるとして、配偶者に対する明渡請求は認められないのが一般的です。
そして、この場合、使用貸借関係があるということですので、賃料相当額の請求をすることもできません。
ただし、自宅に居住しているのが、DVの加害者であり、DVが原因で別居せざるを得なかった、などというような事情がある場合には、居住権の主張が権利の濫用にあたるとして、明渡しが認められることもありますし、賃料相当額の請求が認められることもあります。
なお、DV事案の場合には、建物の明渡請求訴訟の方法以外にも、DV防止法に基づき、配偶者の退去命令を取得し、配偶者を自宅から退去させるという方法がとられることもあります。
上記の事案とは異なり、親が所有する建物に夫婦が無償で住んでいたものの、その後別居したという場合に、親から配偶者に対して建物の明渡を請求することはできるでしょうか。
この点については、夫婦関係が破綻している場合に、家族が共同生活を営むための住居として使用するという使用貸借契約上の目的に従った使用収益は終了しているとして、明渡しを認めた裁判例(東京地判平成9年10月23日)もあります。
離婚後については、同居・協力・扶助義務といったものはなくなるため、占有権限も消滅しますので、原則として明渡を求めることが可能と考えられます。
ただし、離婚における財産分与において、自宅の名義の全部または一部が配偶者名義になってしまった場合には、配偶者は使用権原を有することになり、明渡しを求めることはできないということになります。
この場合には、地代や家賃相当額が請求できるのみということになり、これが不服である場合には、共有物分割請求等により、共有の解消を図る必要があります。