離婚に際して、婚姻期間中の財産の清算を行うために、財産分与を請求することができます。
通常、財産分与の請求は、離婚の調停や訴訟に付随して申立てを行うことになります。
そして、離婚及び財産分与の調停や判決がなされた後に、分与財産を取得することになります。
しかしながら、離婚の成立を待っていては、他方の配偶者が対象財産を換金したり、費消してしまうおそれがある場合もあります。
そこで、調停や判決の結論が出る前に、保全手続として、相手方の財産を保全することが考えられます。
財産分与請求権の保全手続としては、人事訴訟法上の保全処分を利用することになり(人事訴訟法30条)、対象財産の仮差押えや処分禁止の仮処分を行うことになります。
離婚訴訟を提起する場合の管轄裁判所である夫婦どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所または仮差押えする物もしくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄裁判所になります(人事訴訟法30条2項)。
保全命令が認められるためには、以下を疎明する必要があります。
① 本案認容の蓋然性
② 保全の必要性があること
疎明とは、裁判官が一応確からしいという程度の心証を得ることをいい、本案訴訟における証明よりは低い程度で足りると考えられています。
本案認容の蓋然性とは、離婚と同時に行う財産分与請求権の保全処分の場合には、単に財産分与の対象となる財産があるというだけでは足りず、離婚原因の存在に関しても疎明する必要があります。
なお、本案の係属は要件ではなく、離婚調停中や調停の申し立て前であっても、保全申立てをすることができます。
保全の審理手続は、通常、書面審理と申立人の面接によって行われ、相手方には知られずに決定がなされるのが通常です。
保全命令が発令される際には、裁判所から担保を求められるのが通常です。
担保は法務局に供託する方法によって行いますが、一般の民事保全よりも低額になることが多いといわれています。
仮差押えの場合には、保全命令が決定されると、裁判所は決定書を第三債務者に送達し、第三債務者に送達されると、債務者による処分ができなくなります。
具体的には、裁判所から第三債務者である金融機関などに対して決定書が送達されると、配偶者は預金の引き出しなどができなくなります。
不動産の処分禁止の仮処分の場合には、裁判所の嘱託により、処分禁止の登記が行われます。
具体的には、自宅不動産に処分禁止の登記がなされると、第三者に売却することができなくなります。