配偶者が不貞行為を行っているなどの場合、不法行為に基づく慰謝料請求を行うことができます。
ただし、配偶者が任意に慰謝料を支払わない場合には、訴訟をして判決を得て、強制執行をしないと、慰謝料を取得することができません。
また、訴訟の途中で配偶者が財産を隠してしまったり、使ったりしてしまって、いざ強制執行をした際には、財産はなかったという場合には、慰謝料を取得することも出来なくなります。
そこで、判決などを取得する前に、保全手続として、相手方の財産を保全することが考えられます。
慰謝料請求権の保全手続としては、人事訴訟法上の保全処分と民事保全法上の保全処分があり、配偶者に対する保全処分の場合には、いずれの方法によることも可能です。
不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権の保全手続としては、民事保全法上の保全処分によって行うことになります。
人事訴訟法上の保全処分については、家庭裁判所に対して申し立てる必要があり、民事保全法上の保全処分については、地方裁判所に対して申し立てることになります。
保全命令が認められるためには、以下を疎明する必要があります。
① 被保全権利の存在
② 保全の必要性があること
疎明とは、裁判官が一応確からしいという程度の心証を得ることをいい、本案訴訟における証明よりは低い程度で足りると考えられています。
なお、本案の係属は要件ではありません。
慰謝料請求権の保全手続きを行う際には、仮差押えの手続で行います。
仮差押の対象となるのは、通常、配偶者の不動産、預金などです。
不動産を仮差押えする場合には、対象不動産の所在地などが明らかになっていなければなりません。
預金を仮差押えする場合には、口座番号までは不要ですが、金融機関名と支店名を明らかにしなければなりません。
したがって、不動産や預金があるかもしれないが、どこにあるかわからないなどという場合には、仮差押えをすることはできません。
保全の審理手続は、通常、書面審理と債権者のみの審尋によって行われ、債務者には知られずに決定がなされるのが通常です。
保全命令が発令される際には、裁判所から担保を求められるのが通常です。
担保は法務局に供託する方法によって行いますが、請求債権金額の20%から30%程度であることが多いといえます。
保全命令が決定されると、裁判所は決定書を第三債務者に送達し、第三債務者に送達されると、債務者による処分ができなくなります。
具体的には、裁判所から第三債務者である金融機関などに対して決定書が送達されると、配偶者は預金の引き出しなどができなくなります。