遺産分割において、不動産の評価額が問題となることは多いです。
不動産の持分を、法定相続分など割合で分けるのであれば、評価額は問題となりませんが、不動産を相続人の一部が取得し、別の相続人は代償金を受け取る場合や、不動産が複数あって、それぞれの不動産を誰が取得するか争いがある場合などは、不動産の評価額をどうするかが問題となります。
不動産評価の方法としてよく用いられている算定方法は以下の方法です。
一般的には、①や②の方法による場合、④などの方法より、低額の評価額が出る場合があります。
そこで、①や②の額に、一定の数字(たとえば0.8)で割戻す(0.8で割戻すとすれば、1.25を乗じることと同じになる)形で算定することもあります。
他方、郊外の山林や田畑など買い手を見つけることが難しい土地の場合には、③や④の評価額がつかない場合もありえます。
遺産分割調停や審判では、不動産の評価額について、当事者全員の合意があれば、それが著しく不相当でない場合には、当該合意した金額が不動産の評価額となります。
実務上、調停の過程で不動産の評価額について当事者全員の合意が得られた場合には、中間合意として調停調書に記載されます。
後に、一部の相続人が翻意して、不動産の評価額を再度争う場合もありますが、このような場合、特段の事情のない限り、合意を撤回することは訴訟上の信義則に反するもので許されないとする考え方もあります。
当事者の合意により不動産の評価額を定めることができない場合には、裁判所が鑑定人を選任し、鑑定人によって不動産の評価を行います。
裁判所は、鑑定人による評価を採用して、審判等を行うことが通常です。
鑑定を行う場合には、遺産分割時と鑑定実施時の2時点で評価を行うことが通常です。
そして、遺産分割の評価額としては、鑑定実施時の評価を用います。
一方、特別受益や寄与分の算定をするときには遺産分割時の評価を用います。
鑑定を行う際には、当事者は鑑定費用を裁判所に予納する必要があります。
通常の住居でも数十万円、事業用の大型の物件などの場合には百万円単位の費用が必要となることもあります。
鑑定費用は、最終的には、各当事者が法定相続分で負担することになるのが通常ですが、予納する際には、鑑定評価を希望する当事者が一時的に全額を負担することもあります。
不動産鑑定を行う際の評価方法としては、①取引事例比較法、②原価法、③収益還元法を用いることが多いといえます。
上記の一つの方法のみを用いることもありますが、上記すべての方法を用いたうえで、平均をもって不動産評価額とすることもあります。
①取引事例比較法とは、近隣の同種同規模の物件での市場価格を参考にして価格を算定する方法です。
②原価法は、不動産(建物)がどの程度の費用で建築されるものかを算定し、そこから経年劣化による減価償却を行って価格を算定する方法です。
③収益還元法は、不動産が将来生み出す利益(賃料)から還元して算定する方法です。
借地権負担付の土地や借地権の場合、路線価図に借地権割合が記載されていることから、これらを参考にして計算します。
すなわち、借地権負担付の土地の場合には、更地価格から借地権割合を控除して計算します。
一方、借地権の場合には、更地価格に借地割合を乗じて計算します。
借地権割合は6割程度のことが一般的です。地域によっても異なり、5割、7割、大都市繁華街中心部では9割ということもあり得ます。
土地を無償で貸している場合を使用借権付の土地といいます。
父親が土地を息子に無償で貸して、息子が土地上に建物を建てて居住しているような場合です。
使用借権付の土地の場合、更地価格の1割から3割程度を減額して評価されることが多いといえます。
抵当権付の土地の場合、不動産の評価にあたって、減額を行わないのが通常です。