離婚をする前提で別居をしたなどの場合、通常であれば、協議によって婚姻費用を定めたり、婚姻費用の分担調停により婚姻費用を定めるのが通常です。
そして、離婚が成立するまで、定められた婚姻費用が支払われるのが通常です。
しかしながら、別居を開始したものの、離婚が成立するまで、婚姻費用を定めないこともありえます。
そのような場合、財産分与において、未払の婚姻費用を含めて支払ってもらうことはできるのでしょうか。
最判昭和53年11月14日は、「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」としています。
したがって、未払の婚姻費用は財産分与において考慮されるといえます。
具体的には、上記判例では、過去7年で支出した生活費、教育費1000万円のうち、400万円を清算相当額として認めています。
上記から分かるように、未払いとなった婚姻費用全額が財産分与に認められるというわけではなく、あくまで「考慮される」ということなので、一部のみが認められる可能性がある、といえます。
現在では、計算方法としては、未払期間に関して、算定表に基づく婚姻費用を算出して計算し、ケースによってはそこからさらに控除する、といった考え方が一般的と思われます。
また、未払の期間が長期の場合には、全て認められない可能性もあり、婚姻費用分担請求権の時効が5年であることから(民法169条)、5年を限度に認められるという考え方もあります。
逆に、離婚をするまでの婚姻費用が、算定表等に比較して過大すぎるという場合もありえます。
このような場合、支払すぎた婚姻費用を差し引く形での財産分与は認められるのでしょうか。
この点、高松高判平成9年3月27日は、「夫婦関係が円満に推移している間に夫婦の一方が過当に負担する婚姻費用は、その清算を要する旨の夫婦間の明示又は黙示の合意等の特段の事情のない限り、その過分な費用負担はいわば贈与の趣旨でなされ、その清算を要しないものと認めるのが相当である。」としています。
したがって、婚姻費用を支払いすぎている場合には、特段の事情がない限り、財産分与では清算されないといえます。