財産分与は、基本的には、夫婦の共同生活中に形成した財産を清算するものであり、この観点から決められる財産分与を清算的財産分与といいます。
一方、離婚後の扶養という観点から決められる財産分与のことを扶養的財産分与といいます。
財産分与については、清算的財産分与が中心であり、清算的財産分与や慰謝料を考えても、なお離婚後の生活に困窮する場合に、扶養的財産分与が補充的に認められると考えられています。
扶養的財産分与が認められる場合としては、高齢、病気等の場合、子を監護している場合、稼働するために準備期間が必要な場合、などが考えられます。
ただし、上記の事情があるだけではなく、清算的財産分与の金額や、公的扶助、他の親族からの扶養なども考慮してもなお、離婚後の生活に困窮すると考えられる場合に、認められます。
以上のとおり、扶養的財産分与が認められるのは例外的な場合といえますが、認められた例として、以下のようなケースがあります。
(1)東京高判昭和63年6月7日
「第一審原告は現在75歳であり、離婚によって婚姻費用の分担分の支払を受けることもなくなり、相続権も失う反面、これから10年はあると推定される老後を、生活の不安に晒されながら生きることになりかねず、右期間に相当する生活費・・・によると、昭和61年当時で厚生年金からの収入のみを考慮しても第一審被告太郎の負担すべき婚姻費用分担額は10万円をやや下回る金額に達することが認められるところ、その扶養的要素や相続権を失うことを考慮すると、第一審被告太郎としては、その名義の不動産等はないが、前認定の収入、資産の状況等からして、第一審原告に対し、財産分与として金1200万円を支払うべきである。」
(2)奈良家審平成13年7月24日
「申立人は今後自分の生活のみならず長男の面倒も見なければならないのに、婚姻中ずっと相手方の希望により専業主婦であったため、相手方に比し収入を得る方法が限られていることは否定できず、現在もホームヘルパーとして稼働しているが、その収入は月額約15万円にとどまっていることを考えると、ある程度申立人の生活扶助的な要素を考慮する必要もある。これらの事情、その他本件に現れた一切の事情を総合すれば、申立人に対し本件物件の3分の1を分与するのが相当である。」
(3)東京家判平成19年8月31日
「・・・両者の現在の経済的状況の格差や就労能力等に照らし、本件では扶養的な財産分与を考える必要がある。
そして、平成●年●月●日に成立した調停により、原告は被告に月額14万円の婚姻費用を支払うことが合意されていることを踏まえ、離婚成立後もなお3年間は同等の経済的給付を保障することが相当である。」