夫婦が協議離婚や調停離婚する場合は別ですが、裁判で離婚する場合には、「離婚原因」が必要になります。
そして、離婚原因のひとつとして、「悪意の遺棄」が定められています(民法770条1項2号)。
「悪意の遺棄」とは、正当な理由のない同居・協力・扶助義務の放棄を言います。
「悪意」とは、単にある事実を知っているということではなく、倫理的に非難されることを意味します。
一方の配偶者が他方配偶者や子どもを放置して、家を出て、生活費の負担もしないような場合も「悪意の遺棄」に該当します。
実務上も、一方の配偶者が勝手に出て行った場合など、離婚原因として、「悪意の遺棄」が挙げられることは多くあります。
もっとも、単に勝手に出て行ったといっても、別居の原因がどちらにあるか判断が難しいケースもおおく、そのような場合には「悪意」とはいえないことになります。
したがって、実務上、「悪意の遺棄」が離婚原因と認定される例は多くはありません。
離婚原因として「悪意の遺棄」が用いられるのは、相手と音信が途絶えて3年以上別居が継続している場合で、妻が再婚を予定している場合です。
戸籍実務では、「悪意の遺棄」を離婚原因とする離婚請求を認容する判決の理由中で、3年以上の継続した別居が認定されているときには、父性の混乱がないため、再婚禁止期間内であっても、新たな婚姻の届出を受理するという取り扱いをしています。
したがって、この方法をとれば、妻はすぐに再婚をすることができるため、あえて「悪意の遺棄」を離婚原因とすることになります。
別居期間が長く続く場合、「悪意の遺棄」に該当する場合もあります。
ただし、一定期間の別居は別の離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当することも多いため、こちらの離婚原因が認定されることの方が多いといえます。
悪意の遺棄が認められたケースとして、浦和地判昭和60年11月29日があります。
このケースは、妻が脳血栓のため半身不随となり、身体障がい者第4級に認定されていたところ、夫は十分な監護もせずに、突然、離婚しろと言って家を出ていき、その後生活費を全く送金していないというものです。
悪意の遺棄が認められなかったケースとして、最判昭和39年9月17日があります。
このケースは、夫の意思に反して妻の兄らを同居させ、兄とは親密にし、兄のためにひそかに夫の財産より多額の支出をするなど夫をないがしろにしたため、夫が同居および扶助を拒んだというものです。