相続時に複数の法定相続人がいる場合、遺産分割が完了する前に、一部の法定相続人が金融機関に対して行う国債の解約請求は認められません。
個人向け国債は、国が発行する債券であり、金融機関は国から販売を委託され、顧客に対して販売を行います。
そして、顧客が購入した国債は、金融機関において保護預かりされます。具体的には、金融機関の債券取引口座への記帳によって管理されることになります。
国債は、購入から一定期間経過後、満期前であっても中途解約をすることができます。
被相続人の国債について、相続が生じた場合、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります(最判平成26年2月25日)。
そして、国債は共同相続人の準共有になるため、その解約は、相続人全員によらなければなりません。
したがって、一部の相続人からの解約請求は、適法な権利行使とはいえないため認められません。
これは、法定相続人の1人が、国債の全てについて解約・買取請求ができないというだけではなく、国債の法定相続分相当分について一部解約・買取請求ができないということです。
国債の解約・買取請求ができるのは、相続人全員の合意がある場合、遺言がある場合、遺産分割審判がなされた場合などに限られます。
相続人全員の合意がある場合とは、典型的には、相続人全員による遺産分割協議書の提出がなされる場合や、相続人全員による相続手続書類の提出がなされる場合です。
最判平成26年2月25日は、共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはないと判示しました。
判旨において、当然分割とならないとした理由としては、個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ、その権利の帰属を定めることとなる社債、株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は、上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(個人向け国債の発行等に関する省令3条)、取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も、上記金額を基準として行われるものと解されるとされ、個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないことが挙げられています。
国債の解約が認められないにも関わらず、金融機関が、相続人の1人からの解約請求に応じて、一部の相続人に対して国債を解約してしまった場合、原則として金融機関は責任を免れられません。不適法な権利行使による解約・買取であり、解約・買取は無効であると考えられます。
したがって、一部の相続人に対して解約・買取がなされた後であっても、他の相続人としては、金融機関に対して損害賠償請求ができる可能性があります。
最判平成26年2月25日
共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。