成年後見人とは、本人が、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合に、親族等の請求により家庭裁判所から選任される者をいいます(民法7条)。
成年後見人は、本人の財産管理に関する事務を行う必要があり(民法858条)、財産に関する法律行為についての代理権を有しますので(民法859条1項)、本人が生存している際には、本人名義の預金についても払戻権限を有します。
本人が死亡すると、後見は終了します。したがって、成年後見人の代理権も消滅しますので、本人の預金についての払戻権限も消滅するのが原則です。
しかしながら、成年後見人が相続人に財産を引き継ぐまでの間、相続財産の保全等のために必要な行為をしなければならないこともあり、法律上、成年後見人は、以下のような死後事務を行うことができるとされています(民法873条の2)。
上記の死後事務行為を行うことができるのは、「必要があるとき」です。
したがって、成年被後見人が死後事務行為を行うことが必要でない場合(相続人が行っても特段問題ない場合)には、死後事務行為を行うことはできません。
また、「成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなとき」も、死後事務行為を行うことはできません。
成年後見人が死後事務行為を行うことができるのは、「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」です。基本的には死後事務は成年被後見人の死亡後2か月までを想定しています(民法870条)。
上記3つの行為類型のうち、①及び②には家庭裁判所の許可は不要ですが、③を行うためには、家庭裁判所の許可が必要になります。そして、相続預金口座からの払戻は、③に該当すると考えられるため、家庭裁判所の許可が必要になります。
被相続人の自宅の修繕や、被相続人の債務の弁済は、①や②に該当しますが、修繕費を支払うための相続預金の払戻や、債務の弁済のための相続預金の払戻は、③にあたりますので、どのような場合に相続預金の払戻を行うにせよ、家庭裁判所の許可が必要になります。
上記のとおり、成年後見人は、一定の範囲で死後事務権限を有します。
ただし、相続預金の払戻は、家庭裁判所の許可が必要な行為となりますので、相続預金の払戻しを請求するにあたっては、家庭裁判所の許可審判書謄本を提出する必要があります。
なお、成年後見人の相続預金の払戻請求にあたっては、相続人との間でトラブルが生じないかどうかにも注意する必要があります。
相続人の意思に反することが明らかなときには、成年後見人は死後事務を行うことができないためです。
成年後見人としては、無用のトラブルを避けるために、事前に相続人の意向を確認したほうがいいと思われます。