相続開始後、相続人が金融機関に対して請求する書類として、被相続人の預貯金口座の残高証明書や取引履歴などがあります。
残高証明書は、特定日の預貯金口座の残高を記した書類であり、取引履歴は、預貯金口座の過去の入出金の推移が記された書類です。
取引履歴は、被相続人の過去の入出金を確認することにより、相続人その他が生前贈与を受けていないか、また、不正な出金がないかなどを確認するために請求することが多いといえます。
法定相続人の1人が金融機関に対して、残高証明書や取引履歴の開示請求を行った場合、原則として認められます。
法定相続人の一人が取引経過の開示をすることができるか否かにつき、最一小判平成21年1月22日は、金融機関には、預金契約に基づき、預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務があると述べた上、預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(民法264条、252条ただし書)と述べています。
以上からすれば、法定相続人の一人は、金融機関に対して、被相続人名義の預貯金口座の残高証明書や取引履歴の開示請求を行うことが可能と考えられます。
取引履歴の開示請求を行う場合、開示の対象となる期間は、金融機関ごとにまちまちです。過去10年間としている金融機関もあれば、それ以上前の期間も開示する金融機関もあります。
また、開示に要する手数料も金融機関ごとにまちまちです。口座当たりいくらという金融機関もあれば、1年ごとにいくらという金融機関や、取引履歴の1枚当たりいくらという金融機関もあります。
法定相続人の一人が残高証明書や取引履歴の開示請求をしようとする場合の必要書類は、以下のとおりです。
相続人が相続預貯金を解約したり、払い戻したりした後、残高証明書や取引履歴の開示請求を行う場合がありえます。
残高証明書に関しては、預貯金の解約後、相続税申告のために死亡時の残高証明書の取得を求める場合もあり認められています。
取引履歴に関しても、預貯金の解約後、過去の口座の入出金を確認したいと考える場合もあり、預金解約後の取引履歴の開示に応じる例もあります。
しかしながら、東京高判平成23年8月3日が「預金契約についても、銀行は、預金契約の解約後、元預金者に対し、遅滞なく、従前の取引経過及び解約の結果を報告すべき義務を負うと解することはできるが、その報告を完了した後も、過去の預金契約につき、預金契約締結中と同内容の取引経過開示義務を負い続けると解することはできない。」としている点には留意が必要です。
特定の相続人に全ての遺産を相続させる旨の遺言がある場合、または、特定の相続人に預貯金債権を相続させる旨の遺言がある場合など、一部の相続人が預金債権を取得しないことがあります。
このように預金債権を取得しない相続人でも、実務上取引履歴の開示に応じる例もあります。