遺産の分割前における預貯金の払戻し制度

遺産の分割前における預貯金の払戻し制度とは

 相続が生じた場合、預貯金は共同相続人全員の同意がなければ払戻しができないのが原則です。
 しかしながら、相続債務の弁済をする必要があったり、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により、被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要がある場合もあります。
 そこで、相続法改正において、共同相続人の各種の小口の資金需要に迅速に対応することを可能とするため、各共同相続人が、遺産分割前に裁判所の判断を経ることなく、一定の範囲で遺産に含まれる預貯金債権を行使することができる制度を設けられました(民法909条の2)。

払戻請求の手続

 各共同相続人が金融機関に対して当該制度に基づいて預貯金の払い戻しを求める場合、金融機関に以下の書類を提示する必要があります。

  1. 被相続人の出生から死亡までの連続した除籍謄本、戸籍謄本又は全部事項証明書
  2. 相続人全員の戸籍謄本又は全部事項証明書
  3. 預金の払戻しを希望する者の印鑑登録証明書

参考:遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内チラシ – 全国銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/article/F/7705_heritage_leaf.pdf

払戻し可能な金額

 個々の預貯金債権については、3分の1に法定相続分を乗じた額になります。
 なお、預貯金債権の割合や額を計算する場合の基準時は、「相続開始の時」です。
 ただし、同一の金融機関に対して権利行使をすることができる金額の上限は150万円になります。

 たとえば、A銀行に普通預金900万円、定期預金が600万円あり、法定相続分が2分の1の場合を考えてみます。
 普通預金からは900万円×1/3×1/2=150万円、定期預金からは600万円×1/3×1/2=100万円の払戻が可能ですが、A銀行からの払戻金額の上限は150万円になりますので、普通預金150万円、定期預金100万円の中から任意の方法で150万円までを払戻すことが可能になります。

払戻しがされた場合の効果

 払戻しがされた場合、払戻しを受けた共同相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。

 払戻しを受けた金額が、当該相続人の具体的相続分を超過している場合には、当該共同相続人は遺産分割において精算する必要があります。
 たとえば、150万円の払い戻しを受けた共同相続人がいたが、生前贈与を受けていたなどの理由で具体的相続分がゼロの場合には、150万円を他の共同相続人に支払う必要があります。

遺産分割調停・審判での取り扱い

申立て時

 遺産分割前に預貯金債権の払戻しを受けた後に遺産分割調停・審判を申し立てる場合には、以下の資料を提出する必要があります。

  1. 権利行使の対象とされた預貯金債権
  2. 権利行使をした共同相続人の氏名
  3. 権利行使の額

参考:遺産分割調停の申立書記入例|裁判所
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/2019_isan_rei_729kb.pdf

調停・審判での取り扱い

 払戻しされた預貯金は、遺産分割時には存在せず、払い戻しをした共同相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされるため、遺産分割調停・審判では分割対象となる財産としては取り扱われません。
 ただし、具体的相続分を計算する際には、払い戻しされた預貯金の額をみなし相続財産の算定の基礎に加え、みなし相続財産に対する現実的取得分額から払い戻された預貯金の額を控除することになります。

払戻請求権の譲渡、差押え等

 払戻請求権については、譲渡や差押え等はできないと考えられています。

遺言との関係

 預貯金債権が遺贈や特定財産承継遺言の対象となっている場合でも、他の相続人が、遺産の分割前における預貯金の払戻し制度を利用して払戻しをしてしまうことが考えられます。
 この場合、対抗要件主義が適用されることから、対抗要件を具備する前に払戻しがなされてしまった場合には、遺産の分割前における預貯金の払戻し制度を利用した払戻しは有効です。
 したがって、受遺者及び受益相続人は、金融機関に対してすでに払戻しされた金額について払戻しを請求することは出来ず、払戻しを受けた相続人に対して返還請求をすることになります。

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