コラム

遺留分と生前贈与

遺留分における生前贈与の考慮

遺留分を計算する際、贈与の価額を加算する必要がありますが(民法1043条1項)、相続人に対する贈与か、相続人以外に対する贈与かによって取り扱いが異なります。

相続人に対する生前贈与は10年

相続人に対する贈与については、特別受益に該当し、さらに以下のいずれかに該当する場合には、特別受益と評価される価額が算入されます(民法1044条1項、3項)。

  1. 相続開始前の10年間になされたもの
  2. 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与

特別受益とは、婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としてなされた贈与をいいます。生計の資本としての贈与には、居住用の不動産の贈与やその取得費用の贈与、営業資金の贈与、生計の基礎として役立つような財産上の給付が含まれると考えられています。

なお、2019年7月1日より以前に発生した相続の事案では、改正前の民法が適用されるため、特別受益に該当するものであれば、上記のような期間制限なく、遺留分の算定において算入されます(最判平成10年3月24日)。

相続人以外に対する贈与は1年

相続人以外に対する贈与に関しては、以下のいずれかに該当する場合には、その価額が算入されます(民法1044条1項)。

  1. 相続開始前の1年間になされたもの
  2. 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与

遺留分侵害額算定時との違い

遺留分侵害額を算定する際、遺留分から遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益と評価される贈与の価額を控除します(民法1046条2項)。
ここの特別受益と評価される贈与では、上記の遺留分算定におけるような、期間の制限がありません。
すなわち、遺留分請求を受ける相続人に対する贈与に関しては、遺留分の算定において民法1044条1項、3項に定める期間制限が適用されますが、遺留分権利者が受けた贈与に関しては、遺留分侵害の算定において期間制限の定めはなく、過去の贈与であっても控除されることになります。

相続放棄と遺留分算定

相続放棄を行うと、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

生前に相続人に対して生前贈与を行い、被相続人死亡後に当該相続人が相続放棄を行った場合、相続人に対する贈与ではなく、相続人以外の第三者への贈与の規定が適用されると考えられています。

負担付贈与について

遺留分を算定する際には贈与の価額を加算する必要がありますが(民法1043条1項)、負担付贈与については、目的物の価額から負担の価額を控除した金額を加算することとなります(民法1045条1項)。

負担付贈与とは、例えば、自分の1000万円の債務を引き受けてもらう代わりに2000万円を生前贈与する、などという場合です。
この場合、目的物の価額である2000万円から負担である1000万円を控除した金額である1000万円を加算することになります。

不相当な対価をもってした有償行為について

不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなされます(民法1045条2項)。
したがって、目的物の価額から当該対価を控除した金額を加算することとなります。

有償行為については、売買のような有償契約に限らず、対価をもってなされた債務免除なども含まれると考えられています。
対価が不相当か否かは、有償行為の時点における取引価格を基準として、取引通念によって決められます。

「遺留分権利者に損害を加えることを知っていた」とは、単に遺留分権利者に損害を加える事実関係を知っていればよく、遺留分権利者を害する意思までは不要ですし、遺留分権利者が誰であるかの認識までは必要ありません。

たとえば、被相続人が有していた時価3000万円の土地を、遺留分権利者に損害を加えることを知ったうえで、500万円で売買したという場合には、3000万円から500万円を控除した2500万円を加算することになります。

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