相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に遺産分割をしているときは、価額のみによる支払の請求権を有します(民法910条)。
この価額支払請求権の価額を算定する際に、積極財産の価額から消極財産を控除すべきかどうかについて、最判令和元年8月27日は消極財産は控除しなくてよいと判示しました。
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。
民法910条は、相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に遺産分割をしているときは、価額のみによる支払の請求権を有すると定めています。
一方、認知の訴えは、父又は母の死亡の日から三年を経過するまで提起することができます(民法787条)。
そして、認知の訴えは、出生の時にさかのぼってその効力を生ずるものの、第三者が既に取得した権利を害することはできないとされています(民法784条)。
民法910条は、すでに行われた遺産分割の効力を維持しつつ、被認知者の利益を保護するため、価額支払請求権を認めたものと考えられています。
上記判例では、価額支払請求権の価額の算定の基礎となる遺産の価額は、遺産分割の対象とされた積極財産の価額であるとされ、消極財産は含まれないとしました。
そして、これは、相続債務が他の共同相続人によって弁済された場合や、他の共同相続人間において相続債務の負担に関する合意がされた場合であっても異ならないとされています。
判例が上記のような結論に至った根拠は、消極財産である相続債務は、認知された者を含む各共同相続人に当然に承継され、遺産の分割の対象とならないということです。
したがって、相続開始後認知によって相続人となった者が、民法910条の価額支払請求権を行使する場合には、積極財産のみを基準にその価額が算定されますが、一方で、相続債務に関しては、別途承継するということになります。
そして、他の共同相続人が既に相続債務を支払っているような場合には、他の共同相続人から求償を受けることもあり得るということになります。
民法910条
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。