特別受益に該当するのは、被相続人から相続人に対する生前贈与等です。
一方、被相続人が契約者・被保険者となり、相続人を保険金受取人とする場合があります。
このような生命保険金は、特別受益に該当するのでしょうか。
相続人が取得した死亡保険金は、原則として特別受益にはなりません。
保険金は、保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであり、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではないこと、また、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではないこと、が理由になります。
しかしながら、判例上、一定の場合には、特別受益に準じて持ち戻しの対象となると考えられています。
具体的には、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると考えられています(最決平成16年10月29日)。
これまでの裁判例では、相続財産と生命保険金額を比較すると、以下のようにされています。
東京高決平成17年10月27日
遺産額 1億0134万円
生命保険金額 1億0129万円
持戻しの対象となる。
大阪家堺支審平18年3月22日
遺産額 6963万円
生命保険金額 428万円
持ち戻しの対象とならない。
名古屋高決平成18年3月27日
遺産額 8423万円
生命保険金額 5154万円
持ち戻しの対象となる。
以上からすると、おおむね、生命保険金額が、遺産額の50%を超える場合には、持ち戻しの対象となると考えられます。
生命保険を持ち戻しの対象にすると考えた場合にも、その価額をどのように考えるかは議論の余地があります。
支払った保険料が特別受益となるという考え方、受け取った保険金額が特別受益となる考え方など様々ありますが、受け取った保険金額が特別受益となるという考え方が有力です。
ただし、相続人が保険料の一部を負担していた時は、保険料の負担割合に応じて保険金額を按分した金額を特別受益と考えます。
遺留分を算定する際にも、原則として死亡前10年内の特別受益に該当する生前贈与を加算します。
遺留分算定においても、特別受益と同様、特段の事情がある場合には、生命保険も特別受益に準じて加算の対象になると考えられます。