特別寄与料制度とは、相続人ではない被相続人の親族が被相続人の療養看護に努めるなどの貢献を行った場合に、後見に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができる制度です(民法1050条)。
特別寄与料制度は相続法改正によって新たに設けられた制度です。
寄与分は相続人にしか認められませんが、相続人ではなくても、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がいる場合には、その者にも相続財産の分配に預かることを認めることが実質的公平の理念にかなうとの考えに基づき、特別寄与料の制度が出来ました。
特別寄与料が認められる要件は以下のとおりです。
特別寄与料を請求できるのは、相続人以外の被相続人の親族です。
親族とは、6親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族をいいます(民法725条)。
相続人は、寄与分の請求をすることができますので、特別寄与料の請求はできません。
また、相続人が相続放棄をした場合、相続人以外の親族になりますが、特別寄与料の請求はできません。
内縁の配偶者は法律上の親族ではないため、特別寄与料を請求することはできません。
被相続人の親族にあたるか否かを判断するのは、被相続人の相続開始時です。
したがって、たとえば、相続人である子の配偶者が、被相続人に対して特別な貢献をしたものの、被相続人死亡前に離婚したなどという場合には、その配偶者は特別寄与料の請求はできません。
無償で労務提供をしている必要があります。
特別寄与者が契約や遺言により被相続人から対価や利益を得ていたときは、無償とはいえず、請求は認められません。
対象行為が「労務提供」に限定されている点に注意が必要です。
「寄与分」の場合には、金銭等出資型などがありますが、特別寄与料では金銭出資型では認められません。
特別寄与者の行為によって、被相続人の積極財産の増加や消極財産の減少がもたらされることが必要です。
療養看護型の場合には、具体的には、かかるはずであった介護費用を免れたという形で評価されます。
特別寄与者の行為が財産上の効果と結びつく必要があります。
したがって、精神的な援助・協力が存在するだけでは特別寄与料は認められません。
特別の寄与が必要であり、特別の寄与とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度の貢献を超える高度なものであると考えられています。
寄与分でも「特別の寄与」が必要ですが、寄与分とは異なり、特別寄与者は相続人ではなく、民法上の扶養義務が課せられない者も含まれているため、寄与分の寄与とは意味が異なると考えられています。
具体的には、特別寄与料における「特別の寄与」とは、実質的公平の理念及び被相続人の推定的意思という制度趣旨に照らし、その者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献があったことをいうと考えれています。
対象となる寄与行為は、相続開始時までのものです。
したがって、被相続人の死後に葬儀を行ったとか、自宅の整理をしたなどという事情は考慮されません。
特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内、または、相続人を知らなくても相続の開始から1年以内に、家庭裁判所に対して特別寄与料の請求を求める調停又は審判を申し立てる必要があります(民法1050条2項)。
特別寄与料の定め方当事者間の協議により決めればそれによりますが、協議が整わないときや協議ができないときは、調停や審判で決められることになります(民法1050条2項)。
特別寄与料の金額家庭裁判所が審判で決める場合には、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額が定められます。
療養看護型の特別寄与料の場合には、寄与分の場合と同様、要介護度2以上である必要があり、また、その際の介護報酬を基準に、0.5から0.8程度の裁量割合を乗じて計算することになります。
具体的には、介護報酬額×療養看護の日数×裁量割合0.5~0.8で計算されることになります。
特別寄与料は、被相続人の遺産から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません(民法1050条4項)。
したがって、特別寄与料は、遺産から受ける利益以上に認められることはありません。
相続分に応じた負担相続人が複数いる場合には、特別寄与料は、各相続人の相続分に応じて負担します(民法1050条5項)。
遺言がない場合には法定相続分により、遺言により相続分の指定がなされているときには、指定相続分に応じて負担します。
特別寄与料に関して当事者間で協議ができない場合には、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てる必要があります。
特別寄与料請求事件は、遺産分割事件とは別事件です。
したがって、遺産分割調停が申し立てられていないときにも、特別寄与料請求調停だけを申し立てることもできますし、遺産分割調停が申し立てられているときにも、遺産分割調停とは別に特別寄与料請求調停を申し立てることもできます。
ただ、別事件であり、併合審理なども法律上は求められていないものの、実際には、裁判所の裁量で併合審理されることが多いと考えられます。
民法1050条
1 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。