配偶者短期居住権は、一方の配偶者が死亡した後に、生存配偶者が居住建物を無償で使用することができる権利です(民法1037条)。
配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合、被相続人が死亡しても、配偶者はそれまで居住していた建物に引き続き居住することを希望することが通常でと思われます。
特に配偶者が高齢である場合、被相続人の死亡により、住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を立ち上げることは精神的にも肉体的にも大きな負担となると考えられます。
このように、被相続人が死亡した場合に配偶者の居住権を保護する必要性が高いことから、配偶者短期居住権は、相続法改正によって新たに設けられました。
配偶者居住権については以下をご覧ください。
配偶者居住権とは
相続法改正では、配偶者短期居住権(民法1037条)と配偶者居住権(民法1028条)が設けられましたが、違いは以下のとおりです。
配偶者短期居住権は以下の2つの類型があり、存続期間が異なります。
居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合の配偶者短期居住権です。
被相続人が遺言などを遺さなかった場合は、通常こちらになります。
ただし、配偶者が相続放棄をした場合などには、1号配偶者短期居住権は成立せず、2号配偶者短期居住権が成立します。
配偶者が居住建物について遺産分割の当事者とならない場合の配偶者短期居住権です。
被相続人が遺言により配偶者以外の相続人や第三者に居住建物を承継させた場合などが主ですが、以下のような場合に成立します。
法律上の配偶者、すなわち婚姻している必要があり、内縁の配偶者等は含まれません。
ただし、配偶者居住権とは異なり、婚姻期間の制限はありません。
「被相続人の財産に属した建物」とは、被相続人が所有権を有している場合だけではなく、共有持分を有している場合も含みます。
「居住していた」とは相続開始時に配偶者が当該建物を生活の本拠として現に居住の用に供していたことが必要です。
相続開始時点で入院等のために一時的に被相続人の建物以外に滞在していたとしても、配偶者の家財道具がその建物に存在しており、退院後はそこに帰ることが予定されているなど、配偶者の生活の本拠としての実態を失っていないと認められる場合には、配偶者短期居住権の成立が認められます。
配偶者が遺言等で配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権を認める必要がないため、配偶者短期居住権は成立しません。
また、相続欠格に該当したり、廃除によって相続権を失った場合にも、配偶者短期居住権を取得することはできません。
遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日になります。
したがって、短期で遺産分割が成立すれば6か月間となりますし、遺産分割がなかなか成立しない場合には、遺産分割が成立するまでということになります。
居住建物の所有権を取得したものは、いつでも2号配偶者居住権の消滅の申し入れをすることができます。
消滅の申し入れがなされた日から6か月が存続期間になります。
配偶者は、無償で居住建物の全部または一部を使用することができます(民法1037条)。
配偶者短期居住権は、使用する権限があるにすぎず、収益する権限はありません。
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければなりません。(民法1038条1項)。
配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができません。(民法1038条2項)。
居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはなりません(民法1037条2項)。
居住建物取得者は、建物を修繕する義務は負いません。
配偶者短期居住権は、譲渡することができません(民法1041条、1032条2項)。
配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます(民法1041条、1033条1項)。
居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます(民法1041条、1033条2項)。
居住建物が修繕を要するとき、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、それを知らない居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知する必要があります(民法1041条、1033条3項)。
配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する必要があります(民法1041条、1034条1項)。
通常の必要費とは居住建物の保存に必要な修繕費のほか、居住建物やその敷地の固定資産税等が含まれます。
配偶者が居住建物について通常の必要費以外の費用(特別の必要費や有益費)を支出した時は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したときに、その価額の増加が現存する場合に限り、その選択に従い、その支出した金額または増加額を償還する必要があります(民法1041条、1034条2項)。
配偶者短期居住権は、使用借権と同様、第三者対抗力はありません。
したがって、相続人の1人が相続登記をした後、自己の持分を第三者に譲渡して登記された場合、第三者には配偶者短期居住権を主張することはできません。
配偶者短期居住権は、以下の事由により消滅します。
配偶者短期居住権が消滅したとき、配偶者は居住建物取得者に対して居住建物を返還しなければなりません(民法1040条1項本文)。
ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては居住建物の返還を求めることはできません(民法1040条1項但書)。
(配偶者短期居住権)
第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
(配偶者による使用)
第千三十八条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。
(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
第千三十九条 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。
(居住建物の返還等)
第千四十条 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。
(使用貸借等の規定の準用)
第千四十一条 第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。