コラム

限定承認がなされた場合の相続預貯金の払戻し

限定承認について

限定承認とは、相続人が、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることをいいます(民法922条)。

限定承認を行うと、相続人としては、被相続人の債権者や受遺者に対して、相続財産の限度においてのみ責任を負えばよくなり、自己の財産から責任を負う必要はなくなります。

限定承認は、共同相続人全員が共同して行う必要があり(民法923条)、熟慮期間内に相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出して、限定承認をする旨を申述する必要があります(民法924条)。

相続人が数人いる場合に、限定承認の申述が受理されると、家庭裁判所は、相続人の中から相続財産管理人を選任します。この相続財産管理人が、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の権限を有します(民法936条)。

限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び2か月内にその請求の申出をすべき旨を官報により公告する必要があるとともに、知れている相続債権者及び受遺者に対しては、各別にその申出の催告をする必要があります(民法927条)。

一方、相続債権者としては、公告期間内に請求の申出をする必要があります。請求の申出をしなかった場合、残余財産についてしか権利を行使することができなくなり、申出をした債権者より劣後してしまいます(民法933条)。

公告期間満了後、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に請求の申し出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をする必要があります(民法929条)。

そして、相続債権者に弁済した後、受遺者に弁済を行います(民法931条)。

相続預貯金の払戻について

上述のとおり、相続人が数人いる場合に、限定承認の申述が受理されると、相続人の中から相続財産管理人が選任されます。
そして、相続財産管理人が、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の権限を有しますので、相続預金の払戻は、この相続財産管理人である相続人が行うことになります。

他の相続人は、相続財産に対する管理処分権限を失ったものと考えられますので(京都地判昭和44年1月29日)、他の相続人は相続預貯金の払戻請求をすることはできません。

金融機関が相続債権者である場合について


金融機関が被相続人に対して貸金債権を有していたなど相続債権者である場合、相続預貯金と相殺されることもありえます。
京都地判平成9年7月25日判タ971号167頁は、銀行が、被相続人の預金債権と連帯保証債務とを相殺したことが問題となった事案ですが、相殺することができると判示しています。
金融機関は、相続債権と相続預金とを相殺しようとする場合には、請求の申出をする前に、相続財産管理人に対して、相殺の意思表示をする可能性があります。

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