被相続人の預金について、相続が生じた場合、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります(最大決平成28年12月19日)。
そして、相続預金は準共有となるため、相続預金の払戻は、相続人全員によらなければなりません。
以上より、相続人の1人が行方不明となっている場合には、相続人全員からの請求ができないので、便宜払い等の例外的な場合をのぞき、相続預金の払戻しを受けることはできないのが原則です。
相続人が行方不明の場合に、相続預金の払戻しをするための方法としては、不在者財産管理人の選任を申し立てる方法が考えられます。
不在者財産管理人とは、不在者の財産の管理・保存を行う者をいいます(民法25条)。
不在者財産管理人は、行方不明の相続人に代わって、相続財産に関して遺産分割協議をすることができます。
相続人が不在者財産管理人を選任するためには、不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所に対して、申立を行う必要があります。
申立を受けた家庭裁判所は、不在者の不在の事実の調査(不在者の犯罪歴の確認、運転免許証の更新の有無など)を行い、不在者であることを確認した場合には、不在者財産管理人を選任します。
不在者財産管理人が選任された場合には、金融機関としては、以下のような書類の提出があれば、相続預金を払い戻すことができると考えられます。
上述した不在者財産管理人は、あくまで「不在者であること」、すなわち、従来の住所又は居所を去って容易に帰ってくる見込みのない者であること、が選任の要件となっています。
したがって、たとえば、在監者であるとか、行方は分かっているものの、どうしても他の相続人との協議に応じない者である場合などは、不在者財産管理人は選任されません。
このような場合に、相続預金の払戻しをするための方法としては、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てる方法が考えられます。
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てても、当該相続人が調停に出席することは期待できないため、調停成立は難しいと思われますが、調停に代わる審判(家事事件手続法284条1項)をしてもらうことがありえます。また、遺産分割審判がなされることも考えられます。これらの方法により、家庭裁判所により、遺産分割の内容を決めてもらうことになります。
この方法を用いる場合、以下のような書類を提出してもらえば、相続預金を払い戻すことができると考えられます。