被相続人の預金について、相続が生じた場合、遺産分割の対象となります(最大決平成28年12月19日)。そして、準共有となるため、相続預金の払戻は、相続人全員によらなければなりません。
以上より、相続人に未成年者がいる場合には、未成年者も含めて相続人全員の同意を得る必要があります。
しかしながら、未成年者に遺産分割協議書に署名押印などしてもらうだけでは不十分です。
なぜなら、未成年者は、単独で有効な法律行為をすることはできないからです。
未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければならず、法定代理人の同意がない法律行為は、取り消すことができるとされています(民法5条)。
また、法定代理人には、未成年者の財産を管理する権限と、財産に関する法律行為についての代理権があります(民法824条、859条)。
以上からすると、未成年者については、代理権を有する法定代理人に、代理人として、遺産分割協議書に署名押印をしてもらう必要があるということになります。
ここで、法定代理人とは、通常は親権者となりますが、親権は共同で行使しなければならないため(民法818条3項)、両親がいる場合には、両親ともに未成年者者の法定代理人として署名押印をする必要があります。
未成年者も親権者もともに相続人になる場合には、利益相反行為に注意する必要があります。
たとえば、夫が死亡し、妻と未成年の子が相続人になる場合が代表例です。
なお、成年後見と利益相反については「成年後見と利益相反」をご覧ください。
利益相反行為とは、親権者の利益と子の利益が衝突するような行為をいいます。このような行為は、親権の公正な行使が期待できないと考えられます。
したがって、利益相反行為に該当する場合には、親権者には代理権はないとされています。
親権者と未成年者との間における遺産分割協議も利益相反行為に該当すると考えられています(大阪高決昭和41年7月1日家庭裁判月報19巻2号71頁)。
したがって、相続預金の払戻においても、同じ相続人である親権者には、未成年者の代理権はないと考えられます。
利益相反行為に該当する場合に代理権を行使するには、親権者に、家庭裁判所において特別代理人を選任してもらう必要があります(民法826条)。
特別代理人は、当該行為について代理権を有することとなるため、他の相続人と特別代理人との間で遺産分割協議を行うことになります。
未成年者がいる場合に、特別代理人が関与して、相続預金の払戻を行う場合、以下のような書類の提出が必要になります。