遺留分の計算は、最終的には、遺留分権利者がいくら請求できるかを計算する必要があります。いくら請求できるかを、遺留分侵害額といいます。
ただし、遺留分侵害額を計算する前提として、遺留分を計算する必要がありますので、以下では、遺留分の算定方法と遺留分侵害額の算定方法を解説します。
遺留分は、以下の計算式で算出します(民法1042条ないし民法1045条)。
遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×総体的遺留分率×遺留分権利者の法定相続分
上記のとおり、遺留分を計算するためには、その前提として、「遺留分を算定するための財産の価額」を明らかにする必要があります。
遺留分を算定するための財産の価額は、以下の計算式によって算定します(民法1043条1項)。
遺留分を算定するための財産の価額=被相続人が相続開始の時において有した財産+贈与した財産の価額-相続債務の全額
誰が遺留分を取得するかに関しては以下をご覧ください。
兄弟は遺留分をもらえるか
遺留分がいくらになるかは以下をご覧ください。
遺留分の割合はいくらか
遺留分を算定するための財産の価額と具体的相続分は似ていますが、以下の点において異なります。
「被相続人が相続開始の時において有した財産」(民法1043条1項)とは、被相続人が相続開始の時において有した積極財産のことです。
なお、遺贈された財産も、上記財産に含まれます。
祭祀財産については、相続財産とは別個に取り扱われ、その承継は相続から除外されているから(民法897条1項)、上記財産には含まれません。
条件付の権利又は存続期間の不確定な権利も被相続人が相続開始の時において有した積極財産として、遺留分を算定するための財産の価額に含まれます。
ただし、その権利の価額は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って定められます(民法1043条2項)。
相続人以外に対する贈与については、原則として相続開始前の1年間にした贈与の額を、遺留分を算定するための財産の価額に算入します。
相続人に対する贈与については、原則として、相続開始前の1年間にした贈与で、特別受益に該当する額を、遺留分を算定するための財産の価額に算入します。
詳しくは、遺留分算定に生前贈与は考慮されるかをご覧ください。
遺留分を算定するための財産の価額を計算する際には、相続債務の全額を控除します(民法1043条1項)。
控除する相続債務には、私法上の債務だけではなく、租税公課等の公法上の債務も含まれます。
被相続人が負担していた保証債務については、「主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならず、かつ、その履行による出指を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り、」民法1043条1項の「債務」には含まれません(東京高判平成8年11月7日)。
したがって、原則としては、被相続人が負担していた保証債務は遺留分の算定において控除する必要がありません。
相続開始時を基準に評価します。遺産分割とは異なるので注意が必要です。
評価方法は、相続開始時点の客観的価額に基づいて評価します。相続財産に不動産がある場合に、当事者間で価額に関して合意形成ができない場合には、鑑定によることになります。
遺留分侵害額とは、遺留分権利者が被相続人の財産から遺留分に相当する財産を受け取ることができない場合の不足額のことを言います。
遺留分侵害額は、遺留分額から遺留分権利者が受けた特別受益と具体的相続分を控除し、これに遺留分権利者が負担する債務を加算して算定します(民法1046条2項)。
遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者が受けた特別受益の額-遺留分権利者の具体的相続分に相当する額+遺留分権利者が負担する債務
上記の計算では、寄与分は考慮されていないことに留意が必要です。
遺留分権利者が遺贈又は民法903条1項に規定する贈与を受けていた場合には、その価額を控除します。
遺産分割すべき対象財産がある場合には、遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額を遺留分の額から控除します。
ここで控除するのは、第900条から902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額であり、具体的相続分を控除することになります。
ただし、寄与分は考慮しません。
ここで考慮される特別受益については、受益相続人に対する生前贈与と異なり、10年間といった期間制限もありません。
遺産分割が終了しているか否かは上記の計算においては関係がなく、どちらにせよ具体的相続分に相当する額を控除することになります。
遺留分権利者が相続によって負担すべき債務の額を加算します。
通常は遺留分権利者は、被相続人の相続債務を法定相続分に応じて承継することになります。
ただし、相続人のうちの一人に対して財産全文を相続させる旨の遺言がされた場合には、当該相続人が債務の全額を承継したと考えられるため、法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分額に加算することはできません(最判平成21年3月24日)。
受遺者・受贈者が自身が承継する相続債務を超えて相続債務を弁済することがあります。
このような場合、受遺者・受贈者は遺留分権利者に対して求償権を取得しますが、この消滅行為自体は、遺留分侵害額の算定には影響しません。
受遺者・受贈者が、遺留分権利者が承継する相続債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって、遺留分侵害額として負担する債務を消滅させることができます(民法1047条3項)。
この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅します(民法1047条3項)。